サ変動詞をV1とする日本語の語彙的複合動詞への一考察

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  【中图分类号】 G40
  【文献标识码】 B
  【文章编号】 2236-1879(2017)11-0055-02
  1 問題提起
  影山(1993、2013)は、日本語の複合動詞を語彙的複合動詞と統語的複合動詞に分けている。この二種類の複合動詞を区別する際に、幾つかの統語的要素がV1に見られるかどうかをテストに取り上げている。サ変動詞はその統語的要素の一つである。つまり、サ変動詞は語彙的複合動詞のV1には見られないということになる。しかし、以下のようなサ変動詞をV1とする語彙的複合動詞は確かにある。
  1)厚生経済学の基本定理の重要性は,どれほど強調しても強調し足りないものですが,時として過小評価されるきらいがあります。
  では、で本稿では、統語部門で形成される「サ変動詞」は、語彙的複合動詞のV1に見られるという現象について考察し、その現象が成り立つ理由を分析しようと考えている。
  2 研究資料
  サ変動詞は、漢語名詞、或は和語動名詞、外來語に、「する」という動詞を付加することによって統語部門で生成される統語的複合語である。そのため、BCCWJから、サ変(形状詞)可能名詞、「する」の連用形、動詞という三つを続々設置し検索条件にして用例を抽出する。抽出された用例において、統語的複合動詞と語彙的複合動詞はぞれぞれ11551例と52例ある。数字的にいうと、65は11551とは比べものにならないもので、無視されてもいい存在である。しかし、影山(1993)によると、形態的緊密性からいうと、統語的複合動詞の外側には、統語的複合動詞の後項動詞を付けることが出来るのに対して、語彙的複合動詞の後項動詞を付けることはできない。つまり、サ変動詞は語彙的複合動詞の前項に出てくる可能性は「0」であるので、サ変動詞をV1とする語彙的複合動詞は存在するはずがない。その意味からいうと、52例は、少ないのではなく、多いのである。本稿では、この65例を研究資料にする。
  3 サ変動詞をV1とする語彙的複合動詞の確認
  3.1 サ変動詞をV1とする動詞連続が「語」である証拠。サ変動詞をV1とする動詞連続は、語彙的複合動詞であることを証明する前に、まずそれは「語」であることを証明する必要がある。
  影山(1993)によると、ある表現が語かどうかを判斷する際に信頼できる基準は、語の形態的緊密性という性質である。語は形態的なまとまりを構成するから、その内部に統語的要素を介入させることは許されない。その原則に基づく分断可能性テストが設定されている。よく使われているテストは、助詞の挿入である。
  2)a.強調し足りる、否定し去る
  b.*強調しは足りる、*否定しさえ去る
  上述の例で示しているように、「強調し足りる」などは分断不可能であるので、一まとまりの語であることは明らかになっている。そして、アクセント的にいうと、「強調し足りる、否定し去る」などはアクセントの核が一つしかいない。それは一まとまりの語である証拠とは言える。
  3.2 サ変動詞をV1とする動詞連続が「語彙的複合動詞」である証拠。
  それで、サ変動詞をV1とする動詞連続が語彙的複合動詞であることを証明する。影山は、二種類の複合動詞を区別する際に、受身形、主語尊敬語、「そうする」による代用表現、サ変動詞、慣用句などの統語的要素がV1に見られるかどうかをテストに取り上げている。このような統語的要素は、語彙的複合動詞のV1には見られないということになる。本稿では、サ変動詞という統語的要素がV1に見られるケースを分析対象としているので、サ変動詞以外の要素をテストにする立場を取っている。
  3)強調し足りる、 *強調され足りる、 *そうし足りる
  上述の例で示しているように、「強調し足りる」などのV1は統語的要素が見られないので、統語的複合動詞ではなく、語彙的複合動詞であることが明らかになっている。
  4 考察
  どうしてあるはずのないサ変動詞をV1とする語彙的複合動詞が存在するかということを分析する前にし、このような複合動詞を具体的に説明しようと考えている。影山(2013)は、語彙的複合動詞を主題関係複合動詞とアスペクト複合動詞という二つのグループに分けている。この二種類を説明する。
  4.1 主題関係複合動詞。
  主題関係複合動詞は、従来の手段タイプ、様態タイプ、原因タイプ、並列タイプという四つのタイプはを含めている。そして、V1、V2ともに主題関係(項関係)を持ち、V1はV2 を様々な意味関係で修飾する。
  幾つかの例文を見てみよう。
  4)現存するすべての生物は、老化し死んでいく運命にある。
  5)猿は次々と感染し死んでいくが、解剖は少し遅れがちになっていた。
  6)私が戦争恐さにニューヨークを逃げ出したという悪声を放ったのはむしろ東京勢のなかに多く、大阪勢はむしろ私を弁護し庇う側にまわっていた。
  7)医学は毎日変化し変わっていくものですから、お産をして、子育てをして、また復帰というのはまず第一線では不可能。
  8)呼気時に,上昇し浮いている感じの腎臓を触知できる。
  9)もうちょっとで、あなたを心配し案じている父上のもとに無事に帰してあげることができる。
  意味的からいうと、例4と例5における「老化し死ぬ、感染し死ぬ」などは、V1の表す事象は、V2の表す事象の原因となっているので、「疲れ死ぬ」と同じような原因タイプではないかと考えている。そして、例6から例9までにおける「弁護し庇う、変化し変わる、上昇し浮く、衰退し枯れる、整理しまとめる、逡巡し迷う、肥満し太る、制限し抑える、心配し案じる」などは、「光り輝く」と同じような並列タイプに属するとはいえよう。   しかし、アクセント的には、「老化し死ぬ、変化し変わる」などの動詞連続については、アクセントの核は一つか二つかは認定しにくい。アクセント的には、ゆれが見られる。具體的にいうと、一まとまりの語と見做す場合(アクセントの核は一つある)もあれば、二つの語と見做す場合(アクセントの核は二つある)もある。
  4.2 アスペクト複合動詞。
  アスペクト複合動詞は、補文関係タイプ)と副詞的タイプという二つのタイプがある。V2は広い意味で語彙的アスペクトを表し、V1が表す事相の展開について述べる。文の項関係は基本的にV1によって決まる。この部分ではそれぞれ説明する。
  4.2.1 アスペクト複合動詞における補文関係タイプの複合動詞。
  補文関係タイプの複合動詞は、「V1+飽きる」、「V1+上げる」、「V1+止む(止める)」、「V1+足りる」という四つの組み合わせが使われている。この四つは、V1という出来事/行為が(に、を)V2という意味解釈になる。それではその四つをそれぞれ説明しよう。
  まず、「V1+飽きる」と「V1+慣れる」の例を見てみよう。
  10)実際、見聞きしあきているので「基礎はこうなのか」とか「断熱材はアレか」とかココは「坪いくらが採算ライン」なのかとか、営業は困ってくる。
  11)女の子にプレゼントし慣れていないようで恥ずかしいが、事実だからしょうがない。
  「見聞し飽きる」は、「見聞きに飽きる」なので、意味的に「見飽きる」と「聞き飽きる」の結合とは言える。「プレゼントし慣れる」は、「プレゼントに慣れる」の意味である。
  次に、「V1+上げる」の例を見てみよう。
  12)現在の日本人の物の考え方は江戸末期に今日の姿にまで彫し上げられ、その後、政治、社会思想という上層の意識は変わったが、民族としての基本性格はそのままである。
  「彫し上げる」は、「彫することを上げる」なので、意味的に「刻み上げる」とは同様である。ただ、V1の和語動詞をサ変動詞に換えられるだけではないかと考えている。
  そして、「V1+止む(止める)」の例を見てみよう。
  13)〈議会主義〉この一言を呪文のごと懼れ動揺しやまざる彼ら
  14)お互い大物だけに、このままこの2人がつき合い続けると危険と見なした猪木が、乱入し止めたそうです。
  例13は、古代日本語なので、「止む」は現代日本語の「止める」に相当する。つまり、「動揺し止む、輪廻し止む、乱入し止める」は、V1することを止めるという意味なので、「呼び止める」などと同様である。
  最後に、「V1+足りる」の例を見てみよう。
  15)厚生経済学の基本定理の重要性は,どれほど強調しても強調し足りないものですが,時として過小評価されるきらいがあります。
  「強調し足りる」は、「強調することが足りる」という意味なのである。
  4.2.2 アスペクト複合動詞における副詞的タイプの複合動詞。副詞的タイプの複合動詞は、「V1+果てる、V1+去る、V1+返す、V1+回る」という四つの組み合わせが使われている。この四つは、V1という出來事/行為が(に、を)V2という意味解釈になる。それではその四つをそれぞれ説明する。
  まず、「V1+果てる」の例を見てみよう。
  16)七十人ほどの馬廻小姓衆だけをつれて宿泊していた信長は、ひとたまりもなく、燃え盛る火炎のなかで自害し果てた。
  17)炭壁をかきむしって窒息し果てた坑夫のうばわれた爪が水晶のようにかぼそく光っている。
  18)砲声を合図に長州勢は自陣に火を放ち、十七人が割腹し果ててしまう。
  19)あの女性がやったと同様に、粕造は衰弱し果てたアジサイに向かって話しかけた。
  20)叡尊の願いそのままに、博多沖では嵐が吹き巻いて蒙古の軍艦は散乱し果てた。
  以上の例文で出てきた複合動詞における「~果てる」は、「すっかり…する」などの意味を表す。そのV1である「自害する、窒息する、自決する、割腹する」などの動詞は、死ぬという意味である。そして、どのように死ぬかという手段(自殺、割腹など)という意味も含まれている。「死に果てる」の下位概念といってもよろしいかと考えている。「衰微する、衰弱する」は、「枯れる」とは同じ「弱くなる」という意味が含まれている。
  次に、「V1+去る」の例を見てみよう。
  21)この利点を生かし切れるかどうかが今後の課題であるが、その可能性を否定し去るのは誤りである。
  22)その彩りを払拭し去った反応は聞かれないのだろうか。
  23)シー·ドラゴンが原潜として初の寄港を佐世保にした時、佐藤に向けてごうごうと巻きおこった非難の声を無視し去った。
  24)国宝らしきものは、原型の跡形もなく破壊し去られ、列車の機関車のアタマには毛沢東の写真。
  25)魔界という現在の現実が、もろくも崩壊しさるかもしれない。
  26)言葉簡明にして含蓄多く、しかも口拍子がよくて譬喩の人の意表に出づるものをもって、一言にこれを批判し去ろうとするのが、年長者の常の習いであった。
  以上の例文に出てきた複合動詞における「~去る」は、「すっかり…する」という意味である。V1は、壊すという消極的な意味の表す動詞がくる傾向がみられる。
  そして、「V1+返す」の例を見てみよう。
  27)敵は発砲をしかけてきたときに、こちらもすぐに発砲し返すかというと、そんなことはないんです。   28)このようにして定立された諸規定が今やマルクス固有のパラダイムにもとづいて規定し返される。
  29)知恵袋で質問すると回答者の中には逆に質問し返す人がいますがもう編集や返事も出來ないのに何を考えて答えてるのでしょうか?
  以上の例文に出てきた複合動詞における「~返す」は、「打ち返す」のような、他からの働きかけに対して、こちらからもその方へ向かって、何かをするという意味である。
  最後に、「V1+回る」の例を見てみよう。
  30)吹聴しまわるだけならまだしも、Eメールまで使ったことで大事件に発展する。
  「吹聴しまわる」は、「しゃべり回る」と同じように、あちこちへ行ってV1するという意味である。
  4.3 考察。
  上で述べたように、サ変動詞をV1とする語彙的複合動詞は、確かに意味的にも形態的にも成立する。つまり、サ変動詞という統語的複合語の外側に語彙的複合動詞の後項動詞を付けることができるということになる。しかし、サ変動詞は統語構造で形成された統語的複合語であるので、その後ろに語彙的複合動詞の後項動詞を付けることができない(影山1993)。そのため、矛盾している所が生じる。その矛盾に見えることについて説明してみる。
  サ変動詞は、生成の段階では、確かに統語部門で生成されている。例えば:「強調する」は、「強調」という名詞に「する」という動詞をつけることによって生成されている。しかし、生成以降の段階において、統語的複合語として認識されるだけではなく、だんだん単純語として認識されているのではないか。それは、サ変動詞がV1に見られる原因になるではないかと考えている。それで、サ変動詞をV1とする語彙的複合動詞が成立するのは、サ変動詞の両面性に起因する。サ変動詞は、生成的には、統語的複合であると同時に、一部のサ変動詞は、認識され習得される時、一定の文脈おいて語彙的単純語としての性格も持っているのではないかと考えている。
  參考文献
  [1]影山太郎(1993)「文法と語形成」 東京:ひつじ書房
  [2]影山太郎(2013)語彙的複合動詞の新体系、複合動詞研究の最先端 : 謎の解明に向けて東京:ひつじ書房
  [3]Kageyama, Taro (2016) Verb-compounding and verb-incorporation, Handbook of Japanese lexicon and word formation, Boston : De Gruyter Mouton
  用例の出所:
  現代日本語書き言葉均衡コーパス(https://chunagon.ninjal.ac.jp)
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